しなやかでドラマティックな加速 TIME・IZON AKTIV Impression Yuichi Oya

「それはな、『知ったがための不幸』って言うんだよ」。
四半世紀以上も前、業界の大先輩に言われた言葉だ。とある新型車の試乗会でのこと。私がニューモデルの走りに感激するあまり、思わず自分の愛車を侮蔑するような発言をした際、彼がそう諭してきたのだ。〝知らぬが仏〟とほぼ同義ではあるが、そこに、本人だけが知らないことを嘲るようなニュアンスはない。

 

photo/Takuji Hasegawa

 

最高の相棒だと信じていた愛車が、ニューモデルをたった一度試乗しただけで、急に古くさく感じてしまう。裏を返せば、その経験さえなければ愛車は末永く最高の相棒でいられたわけで、つまりは知ってしまったがために訪れた不幸というわけだ。

先日、タイムのアイゾンアクティブに試乗した際、ほぼ四半世紀ぶりにその言葉を思い出した。フレーム価格は約50万円。おそらく、ミドルグレードと呼ばれる、完成車価格40万円前後のロードバイクに乗っているライダーが、次なるステップアップとして購入を検討できるギリギリのプライスだろう(コンポの載せ替えが前提であれば、ほぼフレームのみの出費で抑えられる)。そして、そんな彼らが一度でもアイゾンアクティブに試乗したら、自分のバイクとの間に越えられない壁があることを痛感するはずだ。

タイムのラインナップはシンプルだ。エアロロードのサイロン、オールラウンダーのアイゾン、エンデュランスロードのフルイディティ。以上の3種類しかなく、各モデルにディスクブレーキ仕様を用意している点がこのブランドの先進性の表れだ。ここで取り上げるのはリムブレーキ仕様のアイゾンアクティブで、車名の後半に付いている〝アクティブ〟とはAKTIVフォークのこと。フォークブレード内部にはエンドから金属のプレートが伸びており、その先端に取り付けられたウエイト(チューンドマスダンパー)が前後方向に可動することで、ライダーが最も不快と感じる25~50ヘルツという低周波帯の振動を減衰させる。各モデルとも、一般的な構造のクラシックフォークも選択できるのだが、それとの比較で30%も低周波振動をカットできると聞けば、AKTIVフォークの効果が何となくイメージできるだろう。

 

RTM(レジン・トランスファー・モールド)工法と呼ばれる、黎明期から稀有な製造方法を採用しているタイム。これはカーボンやベクトラン、ケブラーなどの繊維を先に編み込んでチューブ状にし、それを蝋でできた型にかぶせたあと、圧力をかけながら樹脂を充填するというものだ。樹脂を含浸させたカーボンシートを貼り合わせて作る一般的なプリプレグ成形法とは異なり、設計どおり完璧に肉厚をコントロールできる、というのがタイムの言い分だ。その一方で、「たまに蝋が中に残っていて、重量にバラつきがあるんですよね」と証言する販売店も。そんな小さなネガ要素も含め、成り立ちからして他とは一線を画していることは知っておくべきだろう。

 

 

アイゾンアクティブの走りは、一言で表現するなら「しなやかで速い」だ。純レーシングバイクに「しなやか」という言葉は似つかわしくないと思う方も多いだろうが、そもそもタイムは、当時まだ珍しかった1993年にカーボンフレームの製造を開始して以来、振動吸収をコンセプトの一つに掲げてきた。レースの最終局面まで脚を残すには、快適に走れることが重要という考え方だ。その最新モデルであるアイゾンは、一踏みごとにわずかなしなりを感じさせつつも、タイムラグなく軽やかに、かつ滑らかに速度を上げていく。実にドラマティックな加速フィールであり、それが平地で20km/hから30km/hへと増速するという、日常的なサイクリングロードの速度域ですら味わえてしまう。

 

つまり上質なのだ。多少荒れた路面でも前後のタイヤは路面を捉え続け、お尻がサドルから浮くほどに突き上げられたり、走行ラインが乱されて狙ったラインをトレースできないといった、ライダーを慌てさせるような挙動が発生しにくい。どの速度域でもハンドリングのマナーがよく、全てが手の内にある。高額車ではあるが、エントリーやミドルグレードのバイク以上に間口が広いとすら感じられる。

 

さて、注目のAKTIVフォークについて。クラシックフォークと比べると、乗車位置から見えるブレードが明らかに太く、視覚的に好みが分かれるところだろう。とはいえ、その機能は誰もが体感できるもの。確かに、振動が収束するまでの時間が圧倒的に短いのだ。特に荒れた路面では、常に振動を大なり小なり伝え続けるクラシックフォークに対し、AKTIVフォークは時折スッと振動自体が消失する瞬間が訪れる。それでいて、MTBのサスフォークのような伸縮構造ではないので、振動が消え去る瞬間ですらそこに接地感が内包されている。ダンシングやコーナリング、ブレーキング時に感じる剛性感はクラシックフォークと遜色なく、また重量面に関しても、チューンドマスダンパーが限りなく低い位置に取り付けられているためか、ネガはほとんど感じない。

AKTIVフォークとクラシックフォークの差額は6万4800円。実のところ、後者でも純レーシングバイクとしては振動吸収性が非常に高く、ソリッドなフィーリングとスレンダーなフォルムを理由にこちらを選んだとしても、何ら不満は発生しないはず。ただ、最新のタイムらしさを味わいたいのなら、この決して小さくはない差額を惜しむべきではない。

 

さて、実際に購入を検討されている方へ一つだけアドバイスを。ここまでのアイゾンアクティブのインプレッションは、ヴィジョンのメトロン40SLチューブラーという、前後合わせて公称1330g、税抜き22万円のホイールを組み合わせた状態でのものだ。試しに前後で1495gのアルミクリンチャーホイール(税抜き8万2000円なので決して安物ではない)に交換して走ってみたところ、半減とまでは言わないが、このモデルの魅力がだいぶ薄まってしまった。裏を返せば、カーボンチューブラーホイールを組み合わせた際の、パフォーマンスの飛躍がミドルグレードの比ではないのだ。私自身、ここに超えられない壁があると感じた。設計段階からそうした高性能ホイールとのマッチングを突き詰めている可能性も大いにあろうが、とりあえずミドルグレードの現愛車からコンポを載せ替えて安く済ませようと思っている方は、それなりの覚悟が必要だ。

 

 

最後に、カラーリングに触れないわけにはいかない。アイゾンアクティブのデビューは2015年で、4シーズン目となる2018年モデルはグラフィックを一新。カスタムカラーを導入するにあたり、あえてシンプルに徹したと思われるそれは、ダウンチューブに一切のロゴがない。新鮮ではあるものの、タイムを購入できる人のほとんどがコンサバティブであろうことから、どれだけ受け入れられるかは未知数だ。私なら? もしアイゾンアクティブを買えるだけの余裕があれば、2017年モデルの流通在庫を必死に探すだろう。

タイムのオールラウンダーであるアイゾン。その上位バージョンであるAKTIVフォーク仕様は、このフレンチブランドのフィロソフィーをダイレクトに感じられる1本だ。なお、パフォーマンスを存分に味わいたいのであれば、アッセンブルを慎重に検討すべきだ。《 大屋雄一》

Time開発部長インタビュー

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