コンドルのスチール最前線 CONDOR・SUPER ACCIAIO Impression Takehiro Kikuchi

んな自転車に乗ってきたか……。新しい部品やフレームが琴線に触れるか否かは、これまでの経験によるところが大きい。私が初めてロードバイクを買ったときはクロモリが圧倒的なシェアを誇っていた時代だったので、スポーツバイクの原体験はスチールから始まっている。そのせいか、その走行感は学生時代を過ごした街のようで、いくつになっても、カーボンの進化の歩みを早めようとも、性能のいかんを問わず懐かしい存在である。

photo/Takuji Hasegawa

 

SUPER ACCIAIO”はロンドンにある老舗SHOP“コンドルサイクル”が企画し、イタリアで製作しているオリジナルフレームだ。UCIコンチネンタルチームの“JLTコンドル”チームのバイクにも採用されるレース仕様の設計が施されている。マスプロ系クロモリフレームは前傾姿勢の浅いエンデュランス用が多いため、ヘッドチューブが短いSUPER ACCIAIOのレーシーな立ち姿は、スチールフレームがレースで活躍した時代を彷彿とさせる美しさがある。もちろん、自転車の静的なフォルムからは走行性能を判断できない。ただ、強い選手の駆るバイクは美しく、レースによって洗練されるのは今も昔も変わっていない。

「フレームがしなって、伸びるように加速する」とか「クロモリ独特の脚に来ない……」といった使い古されたフレーズは、スチールフレームに対する偏見でしかない。素材で自転車の性能を語るのは、悪いマニアの手本みたいなものだ。金属の素性だけでフレームが分かるわけがないし、深みにはまれば、木を見て森を見ずになりかねない。

試乗車はデダチャイのギャランティーが貼られているが、カタログはコロンブスとの共同開発となっている。前者なら素材はクロモリ、後者であればニヴァクロームの可能性が高い。まったく気にならないと言えば嘘になるが、添加物の差が走行性能に与える影響よりも、もっと気にするべきものがある。

規格と構成

フレームの規格は住宅にたとえると基礎工事。堅牢にしたいなら、それなりの土台が必要だ。幅を広くしたり、径を太くすれば剛性は高くなる。スチールフレームの魅力を細いチューブの織りなすフォルムだとする人も多いが、素材で幅や太さのビハインドを補えるのにも限界がある。然るに、どんな規格を採用しているかは、メーカーの意図を感じ取るのに最適のスペックだ。

カーボンフォークのコラム径は上側が1.125インチ、下側は1.5インチもある。これは規格と仕様が分かる人なら、かなり強烈な組み合わせだと想像がつく。これは数あるカーボンフレームでも上級モデルが好んで採用する仕様で、減衰特性に優れる高弾性糸カーボンの優位性が際立つ最強の規格構成である。スチールフレームとの組み合わせで、どのような走行感にまとめているのか興味深い仕様だ。レースシングを謳うならヘッド周りは強化したくなるものの、ひとつ間違えばノイジーで扱いにくいハンドリングになりかねない。

少しだけスタイリングにも触れておこう。胴抜きを施したカラーリングは1960–70年代に流行った伝統的なデザインである。現代風にアレンジされ、シート&ダウンチューブの胴抜きの幅を不等長かつ、絶妙な位置に配置。チェーンステーとフォークブレードにもアクセントを持たせて新しさを演出している。こういうセンスは近年になって急速にロードレースが普及したロンドンの若さと言っていいだろう。100年以上の歴史を誇るレースがいくつもあるミラノやパリのメーカーが作ると、意識せずとも古典的で伝統に則った色遣いになってしまい新しさは感じない。人気アパレルブランドのラファと同じく、テイストこそレーシングであっても競技色の薄いモダンなスタイルは、コンドルの魅力の1つである。

フレームに機能を与えるコンポには、スラム・フォースがセレクトされている。フォースは2006年に発表されたスラム初の本格的ロードコンポだ。現在は最高級モデルのレッドに譲っているが、基本性能のしっかりした通好みする部品だ。他にホイールはコンドルのオリジナル、タイヤは耐摩耗性とレーシングパフォーマンスを両立させたコンチネンタル・グランプリ4000Ⅱをセット。高価なパーツに依存せず、全体のバランスを考えた部品の選択で大人の佇まいをみせている。

私の記憶が正しければ、スチールフレームがツール・ド・フランスの個人総合優勝を飾った最後は、M・インデュラインが初めて勝った年(1991年)だ。あの年、彼はラゼッサという工房の作ったフレームに乗っていた。以後、スチールフレームはプロロードレースの第一線から徐々に姿を消していった。そして、四半世紀が過ぎたが今でもスチールロードを支持する人は少なくないし、SUPER ACCIAIOのように速く走るための進化を続けている。

通常よりも一回り太い35㎜径のハンドル“デダ・トレンタチンクエ”には、緩衝効果を調整するために黒いバーテープが程よく加減して巻かれている。ハンドルバーは人間と自転車のインターフェイスであり、バーテープの感触やバー形状や剛性が全体の質感に大きな影響を与える。かつてスチールフレームが活躍していた時代、ハンドルのクランプ径は25.4㎜が主流だった。それが現在は31.8㎜が標準サイズになり、SUPER ACCIAIOにセットされているのはさらに太い。それは路面の情報を1つも逃さず、パワーをロスしたくないという意思の表れだ。

予想通り、走り出すと頑健なフロント回りが路面の凹凸を拾い、結構な振動がハンドルに伝わってくる。タイヤは定評の高いコンチネンタル・GP4000II。転がり抵抗が小さくて耐摩耗性に優れており、ペダリングも軽いと人気の高いタイヤだ。カーボンフレームしか知らない人にしたらノイジーに感じるだろうが、このバイブレーションこそスチールらしさの源である。以前、MTB界のレジェンド大竹雅一さんが「MTBでもXCならフルサスペンションはいらない。オフロードを走って、路面の凹凸でガタゴトするのは当然のこと。それがイヤならオンロードバイクに乗ればいい」と仰っていたが、峠のダウンヒルでSUPER ACCIAIOの奏でるバイブレーションも醍醐味の1つだ。

もし、この試乗車と最高級のカーボンバイクの2台で峠の下りでタイムトライアルをしたなら、贅を尽くして振動を素早く減衰するカーボンバイクには勝てないだろう。しかし、スピード感と面白さにおいては一歩も引けを取らない。剛性の高いフロントフォークは路面のコンディションを正確に伝え、ブレーキキャリパーが発生させる制動力にフォークブレードを適度にたわませてスピードを殺す。この一連の流れがブレーキレバーの動きと連動しておりコントロールしやすい。中でもタイトコーナーのブレーキングから、コーナーの頂点を通過し、出口を抜けていくのは抜群だ。

しなやかなセタ(絹)コードのチューブラータイヤだったら、さぞや乗り心地も……と頭をよぎったが、おそらくそれは誤った選択だ。この高剛性なフロント回りに、設計の古いセタのタイヤを対応させようとすると、コーナーの進入でブレーキングしたときに腰砕け気味になるだろう。してみると、最新のクリンチャータイヤから好みのタイヤを探すのが正解だ。私ならミシュランのパワーシリーズかヴィットリアのコルサを選ぶだろう。

ロードバイクの性能を語るときの主役がフレームだとしても、パーツの選択も走行感を作り出す大切な一部である。SUPER ACCIAIOとスラム・フォースのセットアップの関係は実にバランスがいい。シマノ・デュラエースやカンパニョーロ・スーパーレコードと組み合わせれば、もう少し評価を上積みできるかもしれない。だが、それに伴う出費は小さくないし、フレームとコンポの実力は拮抗し、わずかにフレームが勝っているぐらいがベストだ。フォークとフレームの関係においても、カーボンフォークが勝っているので安心してハードブレーキングができるし、ダッシュしたときにスッと前に出る感じが得られるのも頑健なフォークとのバランスがいいのが魅力である。

 

コンドルの意図を汲めばSUPER ACCIAIOはレース用だ。確かに限界に挑みたくなる走行感はレーサーそのものだし、加速の伸びも悪くない。だが、ロングライドでもポタリングでも楽しめる度量の大きさも兼ね備えているのも魅力の1つだ。たとえばフォークこそ硬いが、トップチューブを横に変形させて快適性を向上させ、ダウンチューブも過剛性になりすぎないように液圧成形でバランスを整えている。ジオメトリーは現役プロチームからフィードバックされた仕様で、規格も最新。それでいて乗り心地にスチールらしさもあるので、はじめての1台として考えている人にもオススメできるし、何台かカーボンを乗り継いだ人にも新鮮な体験ができるはずだ。私のようにスチールが原体験にあるなら、郷愁と新しさを同時に楽しめると思う。

フレームで23万5000円。安価で高性能がスチールの魅力なら、もっと安くてもいいと思うが、イタリア製のハンドメードフレームというだけで、40万円近い値札をぶら下げるブランドも少なくない。国産のカスタム系と比較すると、コロンブスのアップチャージだけで7–10万円。しかも、フロントフォークなし、塗装なし……なんてブランドも多い。してみると、SUPER ACCIAIOはバーゲンプライスである。

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