現在、有力ブランドの多くは3つテーマからシリーズを構成している。
TimeならエアロのSCYLON、ヒルクライム用の“Alpe d’ Huez”(アルプデュエズ)、エンデュランス用の“Fluidity”(フルイディティ)の3シリーズ。トレックやキャノンデールも同じ構成で、スペシャライズドやジャイアントはヒルクライムの代わりにレース用バイクとしているが、エアロとエンデュランスの2テーマはどのブランドも注力している。
SCYLONは2015年に発売された“SKYLON”(スカイロン)の後継モデルで、改名に伴いワイドタイヤへの対応と、ヘッドチューブ周辺の剛性を6%、BB周辺の剛性を5%ほど向上させるアップデートが施された。
さらに、SKYLONにはなかったディスクブレーキに対応し、ディスク仕様のアクティブフォークは振動減衰ユニット(チューンドマスダンパー)が右フォークレッグ1ヵ所となり、従来よりも減衰効果が高いというのがトピックである。
軽さと剛性のバランスを求めたAlpe d’ Huezがライトウェイトスポーツなら、SCYLONは空力性能と剛性を追求したスーパースポーツだ。
重量剛性比ではAlpe d’ Huez 01 LTDに及ばぬものの、絶対的な剛性はSCYLONのほうが上。山岳地帯だけでなく平坦も含めた総合性能では悪く見ても五分、ディスクブレーキや高性能化を果たしたチューンドマスダンパーの性能を込みで考えれば、SCYLONを最強モデルとして推す人も少なくない。
Timeの開発を手掛けるザビエル・ルシャブールもSCYLONを愛用者のひとりだ。
「Alpe d’ Huezの登坂性能はすばらしいと思いますが、私は選手よりも身体が大きく、体重も重いのでパワフルなSCYLONのほうが自分には合っています」という。
パワーウエイトレシオの高いライダーと、重量剛性比に優れたバイクの組み合わせは最強に違いない。だが、エンジンとシャーシのバランスが大切なのはクルマも自転車も一緒。バランスが悪いとパフォーマンスは低下しかねない。フレーム単体の重量剛性比を追求する開発方法を見直すメーカーも出てきており、ライダーとバイクのバランスをどのように考えるかは、次世代の大きな課題のひとつだろう。
さて、今回の試乗車は私の個人所有車なので、まず、そこをお断わりしておく。自画自賛だが、いい自転車だと思う。
ただし、ここに至るまでにかなり時間をかけた。タイヤとホイールの組み合わせ、空気圧のセッティングなど、地道に走りながら築き上げた仕様である。好みの差はあるだろうが、間違いなく言えるのは、一級のダイナミックパフォーマンスを誇るということ。
なので、設計思想を理解し、その流れを沿った方向でパーツをセレクトしていけば最適解が得られる。
[矛盾を抱えた剛体]
フレーム剛性はライバルたちよりも高く、乗り心地は快適である。剛性と快適性は相反すると言われているが、カーボンフレームの場合、その限りではない。
Timeが採用する高弾性カーボンは剛性を高めるだけでなく、振動も素早く減衰する。路面の凹凸で発生した振動はすぐに収まるので、フワフワとした柔らかな快適性ではないが、高性能なスポーツカーのようにフラットで乗り心地もいい。
さらにアクティブフォーク仕様はチューンドマスダンパーによって50Hz周辺の振動を軽減する。周波数帯で言われても分かりにくいが、疑似体験なら近所の大型家電屋に行って、ノイズキャンセル機構付きヘッドフォンを試してみればいい。不要なノイズを取り除けばヘッドフォンでは音楽が、フロントフォークでは路面のコンディションがつかみやすくなり、疲労も減らすこともできる。
クラシックフォークの魅力も否定しないが、アクティブフォークを一度経験したら選択肢は1つと言っても過言ではないだろう。
最初はクラシックで……という人も少なくないが、ホイールやハンドル周辺の高剛性化によってノイジーになっていることを考えると、予算が許すならアクティブフォークのほうがベターチョイスだ。