沈着冷静な反応にプロの世界を見る Yuichi Oya

東京近郊にあるメジャーどころの河川敷サイクリングロード。5~6年ほど前までは、週末ともなるとUCIワールドツアーのチームレプリカジャージを着たサイクリストが大挙して押し寄せていたが、今ではすっかり見掛けなくなってしまった。プロチームはシーズン毎にスポンサーが入れ替わるので、ジャージの旬はその年だけということに気付いた人が多いのだろう。とはいえ、プロ選手へのリスペクトがなくなったわけではなく、彼らが使用している最新機材への憧れは強いまま。実際、フレームをはじめコンポやホイールまで全て揃え、ほぼ完璧なレプリカモデルを組み立ててしまう人だっている。そして、そうした趣味が成立するのもロードバイクならではの世界だ。

Photo/Takuji Hasegawa

ロンドンにあるコンドルは、今年で70周年を迎えるロードバイク系ショップ、コンドル・サイクルズのオリジナルブランドであり、同郷のコンチネンタルチーム〝JLTコンドル〟にフレームを供給している。選手たちが使用しているのはロード系のフラッグシップであるレジェーロで、今回はそれを試乗することができた。

カーボンの素地に青、赤、白のシンプルなストライプを入れたJLTコンドルカラーの試乗車は、ただならぬ雰囲気を漂わせている。それもそのはず、コンポはカンパニョーロのレコード、ホイールは同ボーラワン35、タイヤはコンチネンタル、ハンドルやステム、サドルはフィジークで統一するなど、完全にJLTコンドルレプリカ仕様となっているのだ。チーム公式サイトによると、コンポはレコードのEPS(電動コンポ。カンパでは電子式シフトと呼称)を使用しているとのことだが、違いはその程度。これを組み上げたメカニックはさぞかし楽しかったに違いない。

日本製の炭素繊維を選択し、ナノカーボンテクノロジーを駆使して作られているレジェーロ。コンドルの全てのラインナップがそうであるように、フレームはイギリスで設計され、イタリアでハンドメイドされている。いわゆるエアロロードにカテゴライズされるが、ヘッドチューブやダウンチューブが極端な翼断面になっているわけではなく、その片鱗はカムテール形状のシートチューブと専用シートポスト、そして薄く仕上げられたシートステーに見られるのみ。前後のシフトワイヤーとリヤブレーキワイヤーは全てフレームに内装され、これにより電動コンポにも対応している。BB規格はJIS(BSA)で、ヘッドチューブは下ワンに1–1/2インチのベアリングを採用するテーパータイプ。なお、タイヤは28Cまで対応している。

プロも使う実戦仕様ということで、気になるのは重量だろう。公式サイトには塗装済みの55cmサイズで1250gとあり、その重量表記に続いて「インクルーディング・オール・フィッティングス」という注意書きがある。これに専用シートポストが含まれるかは定かではないが、エアロロードは造形的に重量がかさむ傾向にあるので、軽量とは言えないものの納得の範疇だろう。なお、レジェーロには軽さを追求した〝SL〟というバリエーションモデルもあり、こちらは同条件で850gを公称。プロチームが平坦と山岳ステージで車種を変えることは珍しくなく、コンドルがそうした使い分けに対応できるよう、コンセプトの異なる2種類のフラッグシップを用意しているという点が非常に興味深い。

レジェーロにまたがり、深呼吸して気持ちをニュートラルに戻してからペダルに力を込める。JLTコンドルカラーのマシンはスルスルと滑るように加速し、すぐに30km/hに到達した。心拍数は多少上がったものの、気持ちはニュートラルなまま。いや、さらに落ち着いてきたとすら感じる。フレームの剛性としては非常に高いが、その加速感に豪快とか伸び上がるようなというエモーショナルな成分は一切なし。ペダルへの入力が過不足なくリヤホイールを駆動し、その結果として速度を生み出しているようなフィーリングで、まさにプロのための仕事道具だ。

選手が冷静でいられるバイク。これは実際のレース現場では非常に重要だ。例えばプロトンの中で他チームのアタックを警戒しているとしよう。空気が変わるその瞬間を察知しなければならないので、バイクは人間のセンサーに干渉しないよう裏方に徹しなければならない。そのひと踏みが稼ぎに直結するプロ選手が使うからこそ、そうした無色透明な性能を追求したのかもしれない。

ハンドリングはかなりシャープだ。ホイールとタイヤの性能も少なからず影響していると思うが、オーバースピード気味にコーナーへ進入してライダーが慌ててしまっても、特にレジェーロは挙動を乱すことなくスパッと向きを変える。50km/h以上の下りコーナーでのトレース性も完璧で、狙ったラインへ自在に乗せられるからこそ、どんどんスピードが上がっても気持ちは冷静なまま。たまにメーターを確認しないと速度感覚が狂ってしまうほどだ。

ブレーキ性能もいい。最新のダイレクトマウントタイプではないが、ヘッドチューブからフォークにかけての剛性が優れており、高い制動力をしっかりと受け止めてくれる。もちろんコントロール性も十分以上で、だからこそ下りコーナーを冷静に攻められるのだ。

JLTコンドルの選手は、このマシンを駆り世界各地のレースで活躍している。基本に忠実で信頼性のある走りだからこそ、キャリアや脚質を問わずどの選手からも不満は出ていないはずだ。彼らへのリスペクトがある人なら、レジェーロの価値が十分に分かっていただけるだろう。《 大屋雄一》

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