ホイールが奏でる音楽

LightWeight・URGESTALT Disc Impression

LightWeightのホイールを自分のモノにするというのは、人も羨む成功を収めたか、類い稀なる情熱を自転車に注いでいる証である。スポーツ機材にステイタスが必要か意見は分かれるかもしれないが、このブランドが特別な存在であることに異論のある人もいないだろう。

Photo/Takuji Hasegawa

製品作りの基本理念は『妥協なきパフォーマンスの追求』にあり、コストを度外視して作られるホイールは、他の追随を許さない圧倒的な重量剛性比を誇る。先日は世界最強のプロロードチーム“イネオス”がツール・ド・フランスに向けて50セットも購入。機材供給されるのが当然のトップチームが自費で購入したのがニュースになった。また、レース使用にも対応するプロテクションサービスなど、高い顧客満足度を誇るため、自転車業界最強のブランドだと評する人も多い。

《URGESTALT》(ウルゲシュタルト)は、同社の主力ホイール《MEILENSTEIN》マイレンシュタインからスピンオフしたフレームだ。高弾性カーボンをふんだんに使い、ホイールの性能を余すことなく発揮させるために開発された。ホイールにフレームを合わせるというコンセプトはユニークにみえるが、動的性能に大きな影響力を持つ両者が関連付けて考えられるのは、むしろ自然なことだろう。実際、昨今のマスプロメーカーがオリジナルパーツを手掛ける理由も、コストダウンのためだけではなく、統合的に設計できる優位性を見過ごせないからだ。資金的に中小メーカーが追随するとは考えにくいが、ホイールやフレーム単体で空力や快適性といった性能を語るのは、今後、意味をなさなくなっていくはずだ。

軽さこそ正義
走らせてみるとLightWeightのメッセージは極めて明快だ。以前、リムブレーキ仕様のウルゲシュタルトにも乗ったが、メッセージに変わりはない。フレーム重量は830g(リム仕様は820g)+375g(フォーク)と、驚くほど軽いわけではない。それでもTimeのアルプデュエズ01よりも10gほど軽いのだから大したモノだ。さらに実際の重量以上に走らせたときの軽さが印象的なのだ。

たとえば、マドンやターマックが無機質で問答無用な速さだとすれば、ウルゲシュタルトは対極的だ。下ハンを持って、スタンディングで加速していくときの心地良さは、古典的な金属フレームの“加速が伸びる”感覚に近い。もちろん、加速感がいいと言っても、際立つのはホイールの良さであり、フレームは黒子だ。両者の剛性バランスは、ほんの少しだけフレームが弱い。そのためペダリングとウイップのタイミングが合うと、巷間言われる“バネ感”があじわえる。このフィーリングを新旧でいうなら、間違いなく古い。しかし、このテイストこそがヨーロピアンバイクの黄金期を支えてきた、エンスー好みな走行感だ。

ハンドリングは入力に対するレスポンスが早く、路面が荒れると落ち着きがない。俗にいう“ヒラヒラ”したハンドリングで、前さばきのいい味付けである。もう少し穏やかな挙動の方が万人受けするだろうが、安定性が強すぎるとスポーティーさは失われる。フォークコラム下側の径が1.5インチ、フォーククラウンの造形を見ても、ヘッドチューブ周りのたわみを嫌ったのは間違いない。だとすれば、ユーザーができるのはタイヤの選択や空気圧で自分の好みに近づけること。試乗車はコンチネンタル・5000の25Cが装着されていたが、これは悪くない選択だ。微細な振動を吸収し快適性も高かった。美味しいところの短いタイヤなので、相応の出費は覚悟した方がいい。

フレーム価格//55万円(税別)

ホイールの選択は悩ましいが、ベストはマイレンシュタイン・クリンチャーディスクだろう。試乗車はワイドリム版の24Eだったが、ノーマル幅のほうがホイールの横剛性とタイヤの断面剛性がしなやかな分だけ、切れ込み初期の挙動が穏やかになる。ただし、ホイールのトレンドを考えるなら24Eが王道であり、ノーマルとの差も極めて小さい。細身のタイヤが好きな人ならチューブラー仕様も最適解のひとつだ。これは経験からの想像になるが、ロングライドならRTM工法を採用してコストダウンした“ヴィグヴァイザー”も悪くない選択だと思う。

そして、ブレーキング性能が秀でているのも、忘れてはならない特徴だ。ローター径はフロント160㎜、リア140㎜。フラットマウントにデュラエースという標準的なスペックながら、優秀に感じたのはマイレンシュタインのねじれ剛性が高く、それに負けないフロントフォークのバランスを備えているからだ。通常あまり意識することはないが、制動時にスポークには大きな負荷がかかる。たわみにくいホイールほど、ブレーキ性能を損なわない。カーボン繊維の引張強度が高さは通常スポークの比ではなく、加減速がリニアに立ち上がる。かなりのハードブレーキングをしないと感じにくいかもしれないが、素早くスピード殺せるということは、それだけ安全だということ。性能を引き出すには相応のライディングスキルが必要だが、アグレッシブに走るには限界領域のコントロール性は重要なファクターである。

繰り返すようだが、ウルゲシュタルトはLightWeightオーナーのためのフレームだ。パーツは最高級コンポだけが相応しく、完成車価格も高くなる。しかし、購入を検討する人にとってウルゲシュタルトは数あるコレクションの中の1台であって、価格もパフォーマンスも大きな問題ではない。高い敷居に守られた世界で、限られたオーナーたちが世界観を嗜む製品だ。そういう意味ではライバルは不在だし、完全内蔵のワイヤルーティングやコンパクトステーといったトレンドも採用されないが、スタイリングが古くなることもない。

とはいえ、一流品を作るブランドであれば、常に進化を求められる。2019モデルではカラーバリエーションの追加と、プリプレグの積層スケジュールに手が加えられた。わずかでもいいので、進化を続けること。それが出来るか否か、今後、LightWeightのブランド力が問われるところだろう。

Supported by Avant Cycles

Text:Takehiro kikuchi

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