未来のTimeをつくる男 Vol.1 新開発部長ザビエル・ルサブシャール Takehiro Kikuchi

Timeを熱狂的に愛するエンスージャストなら、ここ数年でTimeに大きな変化が起きていることに気がついているはずだ。創業者の1人であり、カリスマ的な存在であったロラン・カッタンが2014年にサイクリング中に急逝。彼の知的好奇心や情熱が小さなペダルメーカーを、伝説的なカーボンフレームへと導いたのだ。そのロランを失い、Timeは大きな変革の時を迎えた。

すぐにカッタンの娘、ジュリアが意志を引き継いだが、より発展的な革新を遂げるため、昨年、ロシニョールグループの傘下に編入を決断する。これにより資金的に強力なバックアップが築かれ、より優秀な人材を登用して体制を一新。そして今年、天才エンジニアのジャン・マルク・グーニョが引退。プロダクトだけを見ていると分かりにくいが、経営も人材、ファクトリーもすべてが新しくなった。

グザヴィエ・ルサブシャール

 

ザビエル・ルサブシャールは、これからのTimeを予想し、理解する上で欠くことのできないキーパソンだ。ジャン・マルクが引退し、製品開発チームのトップに立つ重責を担うことになった彼が、どんな人物なのか話を聞いてみた。

まずは、ご就任おめでとうございます。Timeの開発部長というのは、数あるスポーツバイクメーカーの中でも特別な役割を持つと思いますが……

ザビエル

ありがとうございます。長年、この仕事をしたいと考えていましたので、とても名誉なことだと思います。私はカーボン製品に関係するコンサルタント業を営んでおり、ロシニョールもTimeも大切な顧客の1つでした。なので、Timeの開発に強く関われる立場の提案を受けたときは、本当に特別な気持ちになりました。

アナタが開発チームのスタッフに求める資質とは、どんなものでしょう?

ザビエル

むつかしい質問ですね。でも、ひとつ言えるのは自転車に対する情熱は大切です。新しい挑戦をするというのは、問題を解決したり、技術的な壁を乗り越えることだと言い換えられます。そんなときに長い時間をかけて問題に取り組むには、やはり自転車への情熱で必要です。たとえば新人の研究者が入社したら、彼の最初の課題は我々のテクノロジーを正しく理解すること。実は、それだけでも情熱が必要なのです。

開発チームは何人ですか?

ザビエル

私以外に7人のスタッフがいます。うち2人はロードフレームの設計で10年以上の経験を持つベテランで、あと2人は10年以内の経験者です。また、今年3人を新たに加えました。新しいスタッフは研究所で検査をしたり、構造計算をしたり、ペダルの研究開発をしています。スタッフは全員がサイクリストなので、走ることによって課題を探したり、解決するのにも考えが深まります。コンピュータの前にいるだけでなく、自らが走ることが大切なのです。

ロシニョールグループの傘下になって、工場も移転しましたね。製品開発という観点からみてもi以前と変わりましたか?

ザビエル

ええ、もちろん変わりました。工場の設備は同じモノを使っていますが、開発するプロセス、素材の調達方法などロシニョールがスキー業界で築いてきたノウハウを吸収し、効率的になり仕事が進めやすくなりました。

 

スキーを生産しているロシニョールの本社はリヨンからクルマで約2時間。現在、Timeの工場もここにある。

 

これまで乗って来た中で、あなたはどんなフレームが好きですか?

ザビエル

私はサイロンが好きです。

 

コスメチックが大きく変わった2018モデルのサイロン・カスタムカラー

 

高級車=プロ用と考える人は多いですが、実際のところ、そうなんですか?

ーザビエル

いいえ、そんなことはありません。自転車はプロも一般人も同じモノを使いますから、性能は一緒です。

でも、ライダーのスキルもパワーも違います。 それでも、あなたにとって最高のロードフレームと、選手が求める最高が一緒なのですか?

ーザビエル

一緒です。プロか趣味のサイクリストかの違いだけでなく、コースや乗り方を含めてたくさんの異なる条件があります。プロと私たちの違いだけではないので、それだけに着目してはいません。それぞれの人が最高のパワーを推進力にしてくれるフレームを求めている点では一緒だと思います。

プロ用の自転車といえば、かつてはフレームは選手の体格に合わせて作られていましたが、今は優れたバイクをメーカーが作り、それに選手が合わせているようにみえます。

ザビエル

仰る通りです。多くのブランドは1つのモデルを製作し、ユーザーサイドの選択肢はほぼありません。今、具体的な話はできませんが、問題としての認識はあります。Timeはカーボンを編むところから製作できますので、様々な問題にフレキシブルに対応できるのも我々のアドバンテージです。他のブランドとは違うアプローチができると思います。

フレームを設計する上で需要な寸法やエリア剛性などがあると思いますが、優先順位をつけるとしたら一番はどこになりますか?

ザビエル

自転車のいろんな性能の根幹にあるのはボトムブラケットのエリアです。例を1つ挙げるなら、剛性を上げる、もしくはフレックスを与えるとしても、ボトムブラケットが及ぼす影響は大きいのです。

サイロンのチェーンステー長は404ミリのみですが、理由を教えて下さい。

ザビエル

ジャンマルクはジオメトリーにも造詣が深く、現在のジオメトリーは彼の遺産なのです。コンパクトなバックステーは加速時のレスポンスも良く、私の好みでもあります。これはTimeの資産だとは思いますが、フランスにはジオメトリーの専門家も多くいますし、ある大学と新しいアプローチができないか研究をしている最中です。

 

続く

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